株式投資に役立つ統計学(2):平均と誤差のイメージできるようにする
前回の記事では、株価の動きが天気と同様に完全には読み切れないこと、そうした中でも、高い確率で未来を予測できる方法があること、それがばらつきの概念を取り入れた統計学であることを説明しました。
私の周囲に話を聞くと、ほぼ全員から、統計学は難しそう・・・といった反応を頂きます。
でも、統計学の「こころ」って、人間の直感や経験を整理して、皆に伝えましょう、という点にあるんです。
それは全然難しいことではなく、普段から人間が行っている意思決定に他なりません。
今回は、前の記事で登場した「平均」と「誤差」が株価の中でどのような姿をしているか、イラストを使いながら説明します。
難しい話や厳密な説明はどんどん後回しにして、統計学をイメージできるような記事を心がけたいと思います。
平均と誤差をイメージする
平均と誤差を理解することは、投資と投機を理解することにつながります。
さらに、投機の必勝法には科学的裏付けが無い理由、それ故、多くの人に投資が勧められることが理解できます。
まずは平均と誤差をイメージするところから始めましょう。事例として、次のような株価の推移を考えます。
この例では、株価は上下に変動しながらも、ゆっくり上昇しています。この緩やかな傾き(いわゆるトレンド)が平均です。
平均の形は必ずしも直線とは限りません。また、ある程度の期間が経過すると、傾きや形状が変化することが普通です。例えば、市場予想を上回ったり、長期金利が上がったり、地政学的リスクも関係するかもしれません。
しかし、長期的に見れば緩やかな形をしており、おおよその形を捉えることができます。
一方、より細かく上下に変動する株価の振れが誤差です。ちなみに、金融の世界では、誤差のことをリスクとよぶ場合が多いです。
誤差は常に株価を変化させていますが、その大きさは一定ではなく、大きくなったり小さくなったりと変化します。
特に投資家心理が悪化したときに誤差が一時的に大きくなることが多いようです。
平均と誤差という2つの要素は、株価では上の図のような形をしています。
投資と投機の違いは、平均と誤差のどちらに着目するか
さて、「誤差を含めた」株価のを全ての動きを予測する式を作ることは大変そうです。
なぜなら、株価は非常に複雑な政治的、経済的要素が絡み合って変化しており、短期的にこれを予測することは難しいからです。
一方、緩やかな上昇を式で表すことはできそうです。そこで、誤差は大きさ(=振れ幅の大きさ)だけ気にすることにして、深く考えることをやめます。
その代わり、平均が上向きか、下向きかをしっかり考えることにしましょう。
つまり、株価の動きを「平均」と「誤差」に分けて考えることで、細かい変化に惑わされずに、株価の本質的な動きを考えられるのです。
投資と投機の違いとは、
- 平均(=傾き、トレンド)にお金をかけるのが投資
- 誤差(=振れ幅、ばらつき、リスク)にお金をかけるのが投機
ということになります。言い換えれば、
- ゆっくり、だけど着実に利益をだすのが投資
- 一か八か、短期的に大きな利益を狙うのが投機
となります。
投資と投機の文章による説明は数多くありますが、より深い理解のためにはこれらをイメージできることが大切です。
このイメージこそが、株式投資において統計的に考えるということなのです。
統計的な考え方は応用が効く
投資と投機をグラフでイメージできると、それぞれの特性や、より現実的な疑問が見えてきます。
例えば、
- 平均を予測することはできるのか?
- 平均はどの程度の精度で予測できるのか?
- そもそも、平均はどのように決まるのか?
- 誤差を予想することはできるのか?
- 誤差を予想できないのであれば、成功するかしないかは運否天賦なのではないか?
などに考えが及びますし、
- 投資は長期で、投機は短期というけれど、具体的にどれくらいの期間なのか?
- どのくらいの誤差であれば投資と呼べるのか?
- 自分はどれくらいの誤差を許容できるのか?
- テクニカル分析(移動平均線、ボリンジャーバンド)って使えるの?
といった現実的な疑問も生じると思います。こうした疑問を考えるためには、本質的なイメージを持っておくことが必要です。
株価を平均と誤差に分けるという統計学の考え方は、そのイメージを提供します。
きちんとした方が書かれている書籍で書かれている理論は、統計学的な考え方に基づいています。
そのため、一度統計学の考え方を知っておけば、とっつきにくそうな書籍も読みやすくなるはずです。
次回は、より具体的なイメージを持つために、いくつかのパターンのグラフを用いて平均と誤差を説明したいと思います。